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Challenge to AI Go

囲碁AIへの挑戦

history【囲碁AI挑戦の歴史】③囲碁AIの世界

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囲碁AIの研究開発に、社内から反対の声がなかったわけではない。人的にも予算的にも余裕がなかった。

それでもスタートを切った。

私は仕事が終わったあと、独学しながらプログラムを書きはじめた。交互に碁石を打つところからの開発だった。研究開発を独自で行う意味はもうひとつあると気づいた。同じようなテーマで研究開発に取り組んでいる優秀な人たちと出会えたからだ。本気で取り組んだ者にしかわからない苦労、喜び。そんなものを共有できる仲間と出会えたのだ。

とくに研究したのは、モンテカルロ木検索という手法だった。のちに「アルファ碁」の開発に加わることになるレミ・クローン氏が初めて囲碁AIに導入したものだ。終局まで進めた場合の勝敗予測によって、一手ごとの評価を決めるというモンテカルロ法というシミュレーション手法に、樹形状の分岐を与えてデータの検索を効率化するのが、モンテカルロ木検索である。

モンテカルロ木検索を実装した独自開発のプログラムは、初出場した2015年の第8回UEC杯の予選で2勝をあげた。開発期間は半年だった。もちろん予選落ちだったが、私には満足感が残った。

ディープラーニングという手法が注目されはじめていたのは、ちょうどその頃だった。

ディープラーニングの登場には猫にまつわる2つの出来事があった。

 

 

ひとつは、2010年から開催されていた画像認識の世界的なコンテスト「ILSVRC(ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)」で、ジェフリー・ヒントン教授が率いるトロント大学が、初出場にして圧倒的な成績で優勝したことだ。「ILSVRC」では、ある画像が猫か、ヨットか、花なのかを識別させてAIを競わせた。トロント大はディープラーニングで機械学習したAIで驚異的な精度で画像認識することに成功したのだった。

もうひとつは、いわゆる「グーグルの猫」だ。傘下のYouTubeに投稿されている動画を1週間にわたって解析し学習したグーグルのAIが、猫を識別できるようなったのだ。

教師学習なしに、つまり人の手を介さず、膨大な数量の動画をビッグデータとしてディープラーニングを行った結果だった。

構造化された100万のデータができないことも、1兆の乱雑なデータ(非構造化データ)があれば可能になる。

ビッグデータによるディープラーニングで、プログラムの精度が高まることを多くの人が知った。

2016年春、のちにグーグルに買収されるディープマインド社の「アルファ碁」がイ・セドル九段に勝ったのは、その直後だった。「アルファ碁」は、ディープラーニングで強化学習したプログラムだった。天才デミス・ハサビスが指揮するチームによって開発されたプログラムだった。

この勝負以降、世界はAIに注目するようになった。

第3次といわれるブームになった。

囲碁AIの世界をみると、世界のIT企業がチームプロジェクトで研究開発しているのが目立つ。「アルファ碁」を進化させた「アルファ碁ゼロ」擁するグーグルだけでなく、「絶芸〜ファインアート」のテンセント、「ELF OpenGo」のフェイスブックだ。

対して日本では企業単位で囲碁AIに取り組むところはない。個人が細々と開発をつづける囲碁AIプログラムがほとんどなのだ。

囲碁AIの大会では、ヨーロッパや中国のプログラムに日本のプログラムが勝てなくなっている。それどころか、後発の韓国や台湾のチームにも勝てなくなっている。

日本は囲碁AIで諸外国から、水を開けられたままだ。

このままだと、囲碁AIで勝てなくなるだけでなくAIでも勝てなくなってしまうのではないか? 

私が強く危惧するのは、日本のIT業界の歴史だ。日本では企業どころか教育機関でさえ、ずっとゲーム研究を疎外してきた。すぐに社会の実用に敵わないものとして、その研究は趣味や道楽の扱いに甘んじてきたのだ。その結果が、現在の日本のAI研究の遅れの原因となっていると指摘する人もいる。私も同じように考えている。

一方、中国は多くの企業や教育機関が囲碁AIの研究開発に参入してきている。人材も予算も豊富に投入しているのだ。これが、数年後の日中のAI研究の差になることは明らかではないだろうか。

最近では、中国での国際大会の開催も活発になっている。大きなタイトルは中国で開催される大会ばかりだ。日本では囲碁AI大会の開催さえ資金難で難しくなりつつある。

トリプルアイズですこしでもその支援ができればと考えている所以だ。


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